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第三十八話 涙の跡

Auteur: 文月 澪
last update Date de publication: 2025-12-24 16:00:45

 静寂の中、控えめなノックの音が響き、優斗は目を覚ました。いつの間にか寝ていたようで、窓の外は既に暗い。のそりと起き上がり、目をこする。泣きながら寝ていたせいか、頭がぼぅっとし、視界は滲みまだ涙が残っていた。

 辺りを見回せば見慣れぬ景色。あぁ、そうか、と記憶が追いつく。自分は故郷を離れ、見知らぬ土地に来ていたんだったと。そこで父と再会し、己の立ち位置を思い知らされた。勘違いして有頂天になり、叩きおられた心。俯き拳を握ると、また涙が込み上げてくる。

 そこに再度ノックが響いた。

 その音に慌てて涙を拭うと、返事を返す。すると安堵の気配と共に、気遣う呼びかけが聞こえてきた。

「優斗、あの、ご飯ができたよ。食べよ?」

 そう言う律の声は掠れていて、あの後も泣き続けたのだろう事が窺い知れた。それを思うと罪悪感で胸が締め付けられる。

 優斗を馬鹿にしてきた奴らとの殴り合いの喧嘩は何度も経験したが、友人と認識した人との喧嘩は初めてだ。それは優斗の勘違いであったが、傷付けたという思いは強く、顔を合わせ

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  • 闇より出し者共よ   第九十二話 愛するということ

    「優斗、そんなの関係ないよ。子供ができなくたって、結婚できなくたって、俺は優斗とずっと一緒にいる。もしかしたらさ、医療部が何か開発する可能性だってあるんだよ? ︎︎だって、序列二位と特級の子供だもん。きっと喉から手が出るほど欲しいんじゃないかな。法律も、変わっていくはずだよ。外国じゃ同性婚も珍しく無くなってきてる。日本でも、裁判やってるとか聞くしね。今から諦める必要はないよ」 それは優斗にとっては意外な言葉だった。何も考えていないようで、自分よりもしっかりと未来を見据えている。陰陽寮に長くいる事で、何を欲するかも理解していた。 それも全て、二人の未来のために。「そう……だな。僕達はまだ十五なんだ。急ぐ必要は無いよな」 優斗と律は見つめ合い、頷いた。 それを見ていた玲斗も、嬉しそうに微笑んでいる。我が子が、唯一の存在に出会ったのだ。喜ばない親などいないだろう。勿論、同性愛に忌避感を抱く者が多いのも事実だ。特に陰陽寮は共切の後継を残したいはず。苦難は続くだろうが、二人を引き合わせたのもまた、陰陽寮なのだ。 玲斗も、妻の佐江と出会えた事には感謝している。陰陽寮の指示で、本家筋の佐江とお見合いを強制させられ、当初は嫌々ながらに従った。しかし、見合いの日に初めて目にした佐江は、それは美しく、あっという間に恋に落ちたのだ。 血筋を残すという身勝手な婚姻だが、それでも確かに愛は育った。その証が優斗だ。だからこそ、優斗の気持ちが玲斗にも分かる。「あ~……僕も佐江さんに会いたくなってきちゃったな……」 佐江とはもう何年も会っていない。電話はできる限りしているが、余計に想いが募るばかりだ。抱き合ったのも、随分昔に感じる。「優くん、弟妹欲しくない?」 いきなりとんでもない事を言い出した父に、優斗は面食らった。「は……? ︎︎何言って……」 律もキョトンとして、玲斗を見る。「だってだって! ︎︎ラブラブな二人を見てたら、僕も佐江さんとラブラブしたくなっちゃったんだもん! ︎︎うぅ、佐江さ~ん、会いたいよう……そしたらさ、一晩中抱いて、鳴かせたいな。めっちゃ可愛いんだよ。あ、ヤバい。勃ってきちゃった。昨日抜いたのにな」 優斗は聞きたくもない両親の営みを聞かされ、なんとも言えない表情を浮かべる。仲がいい事は息子としても嬉しい。だが、それを聞かされるのはちょっと遠慮

  • 闇より出し者共よ   第九十一話 交わる運命

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  • 闇より出し者共よ   第九十話 結ばれた手

     午前七時。 二人の姿は陰陽寮の駐車場にあった。  律は後頭部を押さえ、何やらぶつぶつと文句を垂れている。「ひどいよ優斗、思いっきり殴るんだもん。これタンコブになってない?」 いつかどこかで聞いた様な事を、律が言った。それに呆れながら、優斗はぷいっとそっぽ向く。「自業自得だろ。時間を考えろよ」 そう言いながらも、その手はしっかり律と繋がっている。 あの後、律は再戦に挑もうとしたのだ。今日は朝から実地訓練だと言うのに、何を考えているのか。優斗は呆れ気味に零す。「だって~、優斗めちゃくちゃ可愛いんだもん。我慢しろって言う方が無理だよ~」 何度も繰り返される可愛いという言葉に、優斗はじろりと睨んだ。「可愛いって言うな。僕は男だぞ。可愛いって言われても嬉しくない」 しかし律はへこたれない。「優斗、自分の可愛さ自覚した方が良いよ? ︎︎俺、すんごく心配。絶対優斗の事狙ってる奴いるもん。そんな奴ら、俺が殺しちゃうけどさ、そういう目で優斗を見られるのも嫌。優斗は俺だけのものだもん。勿論俺も優斗だけのものだよ」 律は無邪気に恐ろしい事を口走る。さすがに人を殺すのは無しだろう。律が捕まるのは、離れ離れになるという事だ。そうなれば優斗も耐えられない。叱ろうと口を開きかけると、自分を呼ぶ声が聞こえた。 そちらに目を向けると、父が手を振っている。その隣には永都の姿もあった。 手を繋いだまま、足を向けると玲斗が苦笑いをしつつ、顎を掻く。「あ~……、やっぱりそうなっちゃったか」 優斗はその態度にムッとして睨みつけた。「何? ︎︎悪い?」 口調は強気だが、その頬はうっすらと染まっている。息子の知らない一面を目の当たりにして、玲斗は慌てて両手を振った。「いやいや! ︎︎僕に文句は無いよ。優くんが幸せなら、僕も嬉しい。ただ陰陽寮が黙っていないかもと思って。君は共切の所有者だ。その血筋を残したいと考えるはずだからね」 申し訳なさそうに眉を垂れる玲斗に、優斗は少し考えて、はっきりとした口調で告げる。「精子の提供はする。それで勝手に子供でも作ればいい。ただし、僕は認知もしないし、父親になるつもりもない。それさえ認めてもらえば構わない。僕のパートナーは律だけだ」 玲斗は思わぬ言葉に目を瞬く。優斗は真面目で潔癖な所がある。友人を傍に置かないのも、その

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     翌日、午前五時。 優斗が目を覚ますと、隣に律の姿は無かった。起き上がると身体は綺麗に拭かれ、大きなTシャツを着せられている。辺りを見回しても、昨日の夜脱ぎ散らかした服は片付けられていた。 少し腰が痛いが、動けないほどでは無い。 ベッドから降り、廊下へ出るとキッチンから物音が聞こえる。トントンとリズミカルに鳴るそれの合間に、鼻歌が混じっていた。昨夜、あれだけ激しく乱れたのに、鼻歌は上機嫌だ。 その声に情事を思い出した優斗は紅潮する。 初めての経験。 初めての快感。 暴かれる羞恥心と、愛し愛される多幸感。 律とどんな顔で会えばいいのか分からない。でも、どうしようもなく会いたい。昨日の事が夢ではなかったという実感がほしかった。 おそるおそるリビングに続く扉を開けると、キッチンに律の背中が見える。逞しい首筋、Tシャツの上からでも分かる引き締まった背筋、筋張った腕。あれが昨日、自分の身体を犯したのだ。 ぽ〜っと見惚れていると、律がその視線に気が付いた。「優斗!」 途端に満開に咲く笑顔。 鍋の火を消して、トテトテと優斗の元へ近付くとするりと頬を撫で、額にキスを落とす。「おはよ。身体は大丈夫? ︎︎昨日は無理させちゃったから、ごめんね。俺、嬉しくって自制が効かなくて。こんな事初めてで、びっくり」 そう言って笑う顔は本当に幸せそうだ。しかし、優斗は少し悔しかった。自分は初めてだったのに、律は手馴れていたからだ。始終律に主導権を握られ、優斗は翻弄されっぱなしだった。 それが顔に出たのか、律が顔を覗き込んでくる。「優斗? ︎︎どうしたの。もしかして、ヤだった? ︎︎それとも痛かったとか……ちゃんと解したんだけど」 悲しそうに眉を垂れる律に、優斗は首を振って応えた。「違う、そうじゃない。その、僕も嬉しかった。でも僕は初めてだったのに、お前は随分手馴れてたから。僕の他にお前の身体を知ってる奴がいるのが気に食わない」 口を尖らせながら、律のエプロンを摘む。その

  • 闇より出し者共よ   第八十七話 睦言

     律は口付けを繰り返しながら、器用にボタンを外していく。全て外すと、前を開きタンクトップをたくしあげて、指を滑り込ませる。引き締まった滑らかな肌はしっとりと湿り、既に火照っていた。 優斗は初めての感覚に身を捩るが、足の間に律がいるため身動きができない。その足も大きく開かれて、猛りきった雄芯が丸わかりだ。 優斗の身体は羞恥で更に熱を帯びていく。 それを感じ取った律も、熱い吐息を零した。「優斗、気持ちいい……?」 執拗に腰元を撫でられ焦れったいが、律の慈しむような手つきは、大事にされているという実感を伴う。「……うん……りつ、もっと……」 潤む瞳が切なげに揺れる。 それは律の理性を吹き飛ばした。 優斗の首筋に顔を埋め、舌を這わせる。それと同時に手が胸元まで上がってきた。脇から頂きを掠め、周囲を攻める。「は、ぁっ」 思わず零れる嬌声に、優斗は口を両手で覆った。しかし、それは律によって解かれる。「ダメだよ優斗。ちゃんと感じてるの聞かせて。いやらしい声、もっとちょうだい?」 その言葉を合図にしたように、頂きをきゅうっと摘む。全身を駆ける甘い痺れに、優斗は首を仰け反らせた。「あっ、ぁ」 もうタンクトップは首元まで上げられ、薄桃色の果実は外気に晒されていた。律は頂きを口に含め、舌で転がす。刺激が加わる度に、優斗は鳴いた。「優斗、可愛い……好き、大好き」 そう繰り返しながら、胸元に赤い印をつけていく。そのまま下へと向かい、ベルトに手をかけた。なんの抵抗も無く、ズボンが引きずり下ろされ、ボクサーパンツに包まれた雄芯が顕になる。下着の上からでも分かるほどヒクヒクと動く雄芯は、まるで律を誘っているようだ。「ふふ、そんなに俺が欲しい? ︎︎もうパンツびしょ濡れじゃない。初めてなのに、感度いいね」 言葉で責められ、優斗は顔を隠す。「煩い。言うな、馬鹿」 口調をきつくして言ってみても、それすら律を煽る要素でしかない。優斗の白

  • 闇より出し者共よ   第七話 陰と陽

     大太刀を納刀し、のんびりと歩いてくる律の胸ぐらを掴んで優斗は食ってかかる。「おい! 今のなんだよ!? こんな……!!」 憤りで喉を詰まらせる優斗に律はどうどうと手で制す。「まぁまぁ、落ち着いて。お腹空かない? もう良い時間だし、お昼にしよう」 場違いなノリに優斗はがくりと項垂れた。  そんな優斗を放って律は足取りも軽くリュックの元に駆け寄ると、レジャーシートを広げた。そこに弁当や水筒を出すと手招きする。「ほら、早く!」 ルンルンとしながら二段重ねの弁当箱を並べていく。 しかし、今し方恐ろしい目に遭った場所でのんびり食事する気にはなれず、優斗は口を濁す。「何もこんな寒い所じ

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    翌朝、早朝稽古を済ませて汗を流し、家族と朝食の席につく。小堺家は基本和食だ。今朝も湯気の立つ具沢山の味噌汁に焼き魚、野菜炒めの卵とじ、小松菜の煮浸しとどれも美味しそうで、抗議を上げるお腹を宥めながら、作ってくれた母に感謝しつつ手を合わせる。 優斗の家は四人家族だ。 優しい母の佐江。 厳しく剣の師でもある祖父の哉斗。 そして優斗。 おっとりした父の玲斗は単身赴任中だ。 寂しくないと言えば嘘になるが、いつも明るい母に助けられていた。 神社を仕切るのは祖父。 朝食の後は境内を掃いて回り、社殿で祝詞を上げる。母も社務所で売り子として働いて

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     足塚は神社から北に位置する山の中腹にある。今は山道を並んで歩いているが、律が一方的に喋っている状況だ。「ねぇねぇ、鬼って本当にいると思う? 俺はね、いると思うんだよね! 各地に伝承が残っているし、史跡や遺物もある。漂着した外国人や疫病の擬人化だって言う人もいるけど、特徴は全国で一致してるし、伝達技術が発達してなかった大昔じゃそれって無理じゃない? だから鬼は実在していて、今もどこかにいるんじゃないかって思うんだよね! 優斗はどう思う?」 律はずっとこの調子で喋り通している。    優斗はと言えば、暑さと律のマシンガントークで辟易していた。神社から足塚までは結構な距離があるが、バスな

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